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東京地方裁判所 平成5年(ワ)2835号 判決 1994年8月30日

本訴事件原告(反訴事件被告)

西窪勉

本訴事件被告

中園茂樹

本訴事件被告(反訴事件原告)

三紀運輸株式会社

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して一七六万二九三五円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、被告三紀運輸株式会社に対し、一六五万一三一一円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の本訴請求及び被告三紀運輸株式会社のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴・反訴を通じ、これを一〇分し、その五を原告の負担とし、その四を被告三紀運輸株式会社の負担とし、その余を被告中園茂樹の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴請求

被告中園茂樹(以下「被告中園」という。)及び被告三紀運輸株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、連帯して四六〇万三五一五円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴請求

原告は、被告会社に対し、四〇三万六二三九円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件(以下、本訴・反訴を総称して「本件」という。)は、被告会社の従業員である被告中園が、普通貨物自動車(大阪一三き一〇八二、以下「中園車」という。)を運転していて高速道路の追越車線上に停止していた原告所有の普通乗用車(品川三三ひ一〇八四、以下「原告車」という。)に衝突させた事故(以下「本件事故」という。)に関し、原告が、被告中園に対し前方不注視、制限速度超過の過失があつたとして民法七〇九条、被告会社に対し民法七一五条に基づき原告車全損についての損害賠償を請求したのに対し、反訴として、被告会社は、原告がやむを得ない場合以外に禁止されている急ブレーキをかけたため、追越車線を塞ぐような状態で停車させ、又高速道路において停車した場合、後方から進行してくる自動車が衝突しないように三角表示板を設置しなければならないのに、これを怠つた過失があつたとして民法七〇九条に基づき中園車全損についての損害賠償を請求している事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

原告は、原告車の所有者である。被告会社は運送等を業とする株式会社であり、被告中園は被告会社の従業員である。(争いのない事実、甲二の1ないし4、弁論の全趣旨)

2  本件事故の発生

原告は、平成四年一二月八日午前三時一〇分ころ、原告車を運転し、東京都調布市富士見町三―一八中央自動車道上り線七・二キロポスト付近の追越車線を進行していた際、走行車線を走行していた車両の水しぶきを浴びたため、ブレーキを踏んだところ、後輪がスリツプし、原告車の後部を中央分離帯に衝突させる事故(以下「本件自損事故」という。)を発生させ、原告車を追越車線上に停止させた。被告中園は、右時刻ころ、被告会社の業務のため中園車を運転していて、原告車に衝突し、原告車は約三〇メートル押し出されて停止した。(甲一、争いのない事実)

二  争点

本件事故の態様(責任原因の有無及び過失割合)並びに損害の発生及び額である。

1  本件事故の事故態様(責任原因の有無及び過失割合)

(一) 原告

本件事故は、被告中園の前方不注視及び制限速度超過の過失により生じたものである。現に、本件自損事故による原告車の停止から本件事故の発生までの間、数台の車両が原告車に衝突することなく、その側方を通過していつた。

原告車は、本件自損事故により、後部右側角を中央分離帯に衝突させて停止しており、後部右側角部分のみが破損したのであつて、後部左側角は中央分離帯に衝突していない。原告車は、中園車に衝突されたことによつて、大破し、全損の状態となつた。

(二) 被告ら

本件事故は、原告が急ブレーキをかけたことにより本件自損事故を発生させ、夜間にもかかわらず停止表示器材の設置を怠つた原告の過失により生じたものである。被告中園には、過失がなく、仮にあつたとしても、原告には右過失があるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

中園車は、その損傷状態が右前部よりも左前部の方が著しく、原告車も左側面のフロントピラー部の損傷が著しいことなどからして、最初に原告車の左側面に左斜め四五度の角度で衝突し、原告車に衝突したままの状態で原告車とともに路肩の方向へ斜めに移動した。中園車は、原告車の左リアピラー部より後ろには衝突していないのであり、原告車の左リアピラー部より後部の損傷は、全て本件自損事故によつて発生したものである。

2  損害の発生及び額

(一) 原告

原告は、本件事故により原告車が全損となり、以下の損害を被つた。

(1) 車両時価 四五〇万円

(2) 移動レツカー費用 一〇万三五一五円

(二) 被告ら

原告に右損害が発生したことは知らない。原告車は、本件自損事故により、既に全損の状態となつていた。

他方、被告会社は、本件事故により被告中園車が全損となり、以下の損害を被つた。

(1) 車両時価 三一六万二二七五円

その内訳は、中園車の車両本体の時価が二三〇万円、コンテナの時価が八六万二二七五円である。なお、中園車の所有者はオリツクス・オート・リース株式会社(以下「オリツクス」という。)であるが、被告会社は、同社との間でリース契約を締結しており、同社から損害賠償請求権の行使につき承諾を得ている。

(2) 移動レツカー費用 一三万一四二八円

(3) 休車損 三八万二五三六円

中園車は、平成四年九月から同年一一月までの一日平均の売上が五万二八〇〇円であり、右期間の経費率が〇・八三九であつたところ、同年一二月八日から四五日間にわたり休車したため、右額の休車損が発生した。

(4) 弁護士費用 三六万円

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様(責任原因の有無及び過失割合)

1  前記争いのない事実及び証拠(甲一、六、乙一の1ないし16、乙二の1ないし10、三、七、一四の1ないし9、原告本人、被告中園本人)によれば、次の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件事故現場は、別紙物件事故報告書(以下「別紙図面」という。)記載のとおり、片側二車線の中央自動車道上り線七・二キロポスト付近の追越車線上である。本件事故現場付近の走行車線は、直線で、制限速度が時速八〇キロメートルに規制されている。本件事故当時、本件事故現場付近の天候は雨であり、風も強く、ところどころ霧も出ていて、視界があまりよくなかつたほか、照明がある場所では、光が霧に反射して、かえつて視界がよくなかつた。本件事故現場付近の路面には、水が溜まつており、大型車を追い抜いたり、大型車に追い抜かれたときには、大型車が上げる水しぶきを浴びる状態であつた。本件事故当時の交通量は少なかつた。

(二) 原告は、原告車(メルセデスベンツ白色)を運転して、本件事故現場付近の追越車線上を八王子方面から新宿方面に向かい時速八〇キロメートルを少し超える速度で進行していたところ、走行車線を進行中のトラツクを追い越すに当たり、水しぶきを浴びて狼狽し、急ブレーキをかけたため、原告車がスリツプして急に後部が振られ、走行の自由を失つて前方に斜めの態勢で滑走し、原告車後部が中央分離帯に衝突し、原告車は、追越車線上で中央分離帯から約一メートル離れて停止した。原告は、左ハンドルの運転席から慌てて降り、原告車の前を回つて中央分離帯の所へ行き、原告車の後方の中央分離帯上に立つて原告車後部の衝突箇所を確認したところ、原告車のトランクは、完全に開いている状態ではなく、トランクフードが少し浮いたような状態であつた。その後、中園車が原告車に衝突するまでの一、二分の間、二、三台の車両が原告車を避けて通過していつた。原告は、気が動転し、停止表示板を設置する時間的余裕があつたものの、ぼう然としていて、停止表示板の設置など後続車に対する停止の合図をしなかつた。

(三) 被告中園は、中園車(最大積載量二七五〇キログラムの普通貨物自動車)にアパレル関係の雑貨を積んで大阪から水戸へ向かつて中央自動車道を八王子方面から新宿方面に向かい時速約九〇キロメートルの速度で追越車線上を進行していたところ、本件事故現場に差しかかつた際、原告車との衝突地点の約六、七〇メートル手前において、前方の追越車線上に何か大きな物があるのが見えてきたが、影かもしれないと思い、そのままの速度で車線変更することなく追越車線を進行したところ、右衝突地点の約三〇メートル手前において、原告車が停止しているのを発見し、サイドブレーキとフツトブレーキの両方で急制動措置を採つたが、間に合わず、中園車を原告車に衝突させた。被告中園は、原告車を発見した際、本件事故現場付近の調布インターチエンジから合流してくる車両がゆつくりした速度で走行しているのが見えたため、ハンドル操作によつて事故を回避しようとしなかつた。右衝突によつて、原告車は、中園車に押し出されるようにして、中園車とともに三〇ないし五〇メートル路肩の方へ斜めに移動し、中園車は別紙図面4、原告車は同図面<5>のように停止した。

(四) 原告車の本件事故後の破損状況は、左側面がフロントフエンダー後部からリアーフエンダー前部にかけてルーフ部分を含めて凹損・大破していたほか、車両後部中央部がえぐり取られ、左右リアーフエンダーが圧縮されて中央部へ引つ張られるとともに、左リアーフエンダー後部がアコーデイオン状に縮み、左後輪タイヤを押してパンクさせているというものであつた。また、リアータイヤハウスはへの字状に変形し、リアーフロア及びリアーフレームも圧縮されて曲がつている。さらに、トランクフードの後部左角部分は、左方向からの擦過痕が残るとともに、前方に折れ曲がつていた。そして、右側面にふくらみが出ており、左右前輪が右側へハンドルを切つた形で曲がつていた。

(五) 中園車の本件事故後の破損状況は、左前部フロントフエンダーが一部脱落し、コーナーパネルに斜めの傷があるほか、フロントガラス下の右コーナーパネル部分、右ヘツドライト部分及びその下の右前部バンパー部分が損壊し、同バンパー部分の一部が凹損していたというものであつた。

2  右認定の事実によれば、以下のとおり考えることができる。

(一) 本件事故の態様

原告は、本人尋問において、本件自損事故直後の原告車の状況につき、原告車の後部右側角を中央分離帯に衝突させて前部を新宿方向に向けて追越車線上に斜め横向きの状態で停止したから、後部右側角を破損させたに止まると供述する。これに対し、被告らは、原告の右供述は信用できないとして、原告車のリヤーピラーよりも後部の損傷は自損事故によるものと主張する。本件では、本件自損事故直後の原告車の状況を現認した者は原告のみであるから、本件自損事故の態様については右原告の供述の信用性如何にかかつているので検討すると、まず、原告車の左側面部の損傷が著しいところ、中園車の車幅が二・四九メートルであること(乙四の1により認める。)、中園車の車高が三・七九メートル、原告車の車高が一・四〇メートルであつて(甲二の1、乙四の1により認める。)、中園車のフロントガラス下の右コーナーパネル部分の凹損(乙一四の8)が原告車の左リヤーピラー部の高さ、傷の状況とほぼ一致することから(乙一四の9)、中園車は、原告車の左フロントフエンダー後部から左リヤーピラー部にかけて衝突したことが認められ(この点は、原告も争わない。)、両車両の衝突が右一回に止まるときは、原告車のリヤーピラーよりも後部の損傷は、右衝突によつて生じるものと認めることが困難であるから、原告の右供述は信用できず、同損傷は自損事故のみにより生じたこととなる。しかし、<1>原告車は右リヤーフエンダーのみならず、左リヤーフエンダーも圧縮されて、中央部へ引つ張られており、後部左側部分への外力が右方向からではなく、左方向から加えられたとみられること、<2>原告車の左リヤーフエンダー後部がアコーデイオンのように縮み、左後輪タイヤを押してこれをパンクさせ、さらに左後輪タイヤハウスがへの字状に変形していることから、後部左側角部分への外力が右方向からではなく、後ろの方向からかかつているとみられること、<3>自損事故によつては、高速道路中央分離帯のガードレールが修理を要する程度には損傷していないこと(このことは、甲一「物件事故報告書」中にガードレール損傷の記載がないことと弁論の全趣旨により窺われる。)、<4>中園車は右ヘツドライト部分及び右前部バンパー部分に相当の凹損(乙一四の8)をしているが、これらの損傷は、原告車の後部左側角と衝突したことにより生じたものと推認することが可能であることを総合すると、右原告の供述を採用し、原告が供述するとおり、原告車は、本件自損事故によりその後部右側角を中央分離帯に衝突させて同部を損傷させた状態で、その前部を新宿方向に向けて追越車線上に斜め横向きの状態で停止していたところ、中園車のヘツドライト部分及び右前部バンパー部分側角が原告車の右後部左側角部分に衝突し、その勢いにより、原告車の左リアーフエンダー後部等が前記のように変形するとともに、原告車が反時計回りに回転しながら中園車の進行方向前方へ押し出され、再度中園車が原告車の左側面に衝突し、そのまま三〇ないし五〇メートル前方の走行車線まで移動したものと推認するのが相当である。

被告らは、原告車のトランクフードの後部左角部分には左方向からの擦過痕が残るとともに前方に折れ曲がつていることから、これは同部分がガードレールに衝突した痕跡であるとして前記主張をするが、右損傷は中園車との衝突によつても生じ得るから、右認定の妨げにはならない。また、被告らは、前記<2>の事実はガードレールに衝突することによつて生じたと主張するが、そのように仮定した場合、原告車が回転しながらガードレールに衝突し、左側後部への力は後部からの直角方向から左側斜め方向に徐々に角度を変えながら、かつ、その力が強力になりながら加わつていくこととなるため、左リアーフエンダーが中央部に引つ張られる状態となることは考え難く、また、ガードレールの損傷も相当なものとなつていたはずであり、前記<1>及び<3>の事実と矛盾することとなるから、右被告らの主張も採用できない。

(二) 責任原因及び過失割合

原告は原告車を中央自動車道の追越車線上に停止させたが、その原因は、<1>一般に急ブレーキが禁止されているほか(道交法二四条)、本件事故当時、雨天で路面がスリツプしやすく、しかも、時速八〇キロメートルを少し超える高速度で進行していたため、特に急ブレーキをかけることが危険であつたにもかかわらず、走行車線を走行していたトラツクを追い越す際に水しぶきを浴びたため、狼狽して急ブレーキをかけ、<2>夜間であり、かつ、雨天で風が強く、霧も出ていたため、後続車からの視界が不良であつたのであるから、停止表示器材を設置すべきであり、しかも、その時間的余裕があつたにもかかわらず、夜間用の停止器材の設置など後続車への停止の合図をしなかつたという、原告の過失にあるというべきであるから、原告は、本件事故により被告会社が被つた損害につき、民法七〇九条に基づき、賠償する責任がある。

しかし、他方、被告中園は、本件事故現場付近の制限速度が時速八〇キロメートルに規制されているにもかかわらず、これを超える時速約九〇キロメートルの速度で追越車線上を進行していたほか、前記衝突地点の六、七〇メートル手前において、前方の追越車線上に何か大きな物があるのを認識したのであるから、これを避けるために減速するか、又は車線変更をして本件事故の発生を未然に防止すべきであつたにもかかわらず、これが何かの影かもしれないと軽信し、右制限速度を超過する速度のまま、車線変更もすることなく、漫然と進行し、右衝突地点の約三〇メートル手前に至つて、初めて追越車線上の物体が原告車であることを認識し、急制動措置を採つたものの、間に合わず、中園車を原告車に衝突させたのであるから、本件事故当時、本件事故現場付近の視界が不良であつたこと、及び前記原告の過失内容を考慮しても、被告中園には過失があり、同被告は民法七〇九条によつて、同被告の使用者である被告会社は民法七一五条によつて、それぞれ本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

そして、右事情を総合すると、原告と被告中園の過失割合は、いずれも五割であると認めるのが相当である。

二  損害の発生及び額

1  原告

(一) 原告車の本件自損事故後における時価 三四二万二三五五円

前認定の事実及び乙一の1ないし16、七、乙一四の1ないし3、6、7、9によれば、原告車は、本件自損事故により、その後部右側角を中央分離帯に衝突させたのであつて、右自損事故によつては、いわゆる全損扱い相当の損害を被つてはおらず、未だ自力走行が可能な状態であつたから、その後、中園車が原告車に衝突した本件事故により、重大な損傷を受け、いわゆる全損扱い相当の破損を被つたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、甲二の1ないし3、甲三の1、2(レツドブツク)によれば、原告車は、初年度登録年月が昭和六〇年一一月であるメルセデスベンツ五〇〇SEC(型式E―一二六〇四四)であり、原告車と同型・同年車の本件事故当時における中古車市場価格が四四〇万円と評価されていることが認められ、本件自損事故がなかつたならば、本件事故当時における原告車の時価は四四〇万円であつたと評価するのが相当であるところ、前記原告車の本件自損事故後の破損状況及び甲七(原告提出の見積書)によれば、その修理費用が少なくとも九七万七六四五円を下らないことが認められるから、本件事故による原告車の損害額は、右中古車市場価格から右修理費用を控除した三四二万二三五五円であると認めるのが相当である。なお、乙三号証による修理費用の見積もりは、写真によるものであるうえ、自損事故によつて損傷した範囲について、後部右角を中心とした部分だけではなく、後部全体、更にハンドルまで買換える必要があることを前提としたものであつて、採用できない。

(二) 移動レツカー費用 一〇万三五一五円

甲四、原告本人尋問の結果によれば、原告が、渡邉機械起業有限会社に対し、本件事故による原告車の移動レツカー費用として、一〇万三五一五円を支払つたことが認められ、前認定のとおり、本件事故により原告車が全損扱い相当の損害を被り、自力走行が不能となつたのであるから、右レツカー費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そうすると、原告の損害合計は三五二万五八七〇円となるところ、前示のとおり、本件事故における原告の過失割合は五割であるから、五割の過失相殺を行うと、損害合計額は一七六万二九三五円となる。

2  被告会社

(一) 中園車の車両本体及びコンテナーの時価 二六一万四一二五円

乙二の1ないし10、七、一四の4、5、8及び弁論の全趣旨によれば、中園車の車両本体は、本件事故により、左右前部に重大な損傷を受け、いわゆる全損扱い相当の破損を被つたこと、中園車の車両本体に取り付けられたコンテナー部分は、車両本体が全損となつた場合、他の車両に乗せ換えて使用できないものであることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、乙四の1によれば、中園車の車両本体は、初年度登録年月が平成元年一〇月である日野普通貨物車(型式U―FD二HUAA)であることが認められるところ、乙四の2、3(レツドブツク)には、中園車の車両本体と同型・同年車の中古車市場価格は記載されていないが、中園車の車両本体と同年で類似の型の車両の価格のうち、最も本件事故当時の中古車市場価格が低いもの(型式U―FD二HGAA)の価額が一九五万円であるから、少なくとも中園車の車両本体の本件事故当時における時価は一九五万円を下るものではないと評価するのが相当であり、本件事故による中園車の車両本体の損害額は一九五万円であると認めるのが相当である。

また、前認定の事実のほか、乙四の2、3、乙一五によれば、被告会社は、平成元年一〇月二五日に中園車を大阪日野自動車株式会社(以下「大阪日野自動車」という。)寝屋川支店からコンテナー部分を含めて五八五万円で新車で取得したこと、中園車の本件事故当時の時価を類似の型の車両の中古車市場価格から一九五万円と認めたところ、右型の車両の新車購入価格(東京)が三五四万円であることが認められる。そうすると、中園車のコンテナーの再取得価額は、右取得価額から右新車購入価額を控除した二三一万円であると認めるのが相当である。そして、被告会社が右コンテナーの時価算定方法として主張する定額法によつて、使用期間を三年二月とし、右コンテナーの時価を算定すると、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令一五号)によつて、本件コンテナーの耐用年数が四年、残存割合が〇・一、年償却率が〇・二五とされていることは当裁判所に顕著な事実であるから、本件事故による中園車のコンテナーの損害は、次の計算式のとおり、六六万四一二五円であると認めるのが相当である。

(計算式) 二三一万円×〔{一-〇・一(残存割合)}×{一-〇・二五(年償却率)×三八月/一二月(使用期間)}+〇・一(残存割合)〕=六六万四一二五円

なお、乙四の1及び4によれば、中園車の所有者はオリツクスであるが、被告会社は、同社との間でリース契約を締結しており、同社から損害賠償請求権の行使につき承諾を得ていることが認められる。

(二) 移動レツカー費用 一三万一四二八円

乙六によれば、被告会社が、大阪日野自動車に対し、本件事故による中園車の移動レツカー費用として、一三万一四二八円を支払つたことが認められ、前認定のとおり、本件事故により中園車が全損扱い相当の損害を被り、自力走行が不能となつたのであるから、右レツカー費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(三) 休車損 二五万七〇七〇円

前記認定のとおり、中園車の車両本体が全損状態となつたため、同車の車両本体とコンテナー部分も使用不能となつたことからして、被告会社において、本件事故当時ころに遊休車が存在したとする証拠がなく、仮に、遊休車が存在するとしても、これが運用されていたとする証拠もない本件にあつては、休車損害の算定に当たつて、中園車の代替車両を取得するのに必要である期間、中園車が操業を継続していれば得られたはずである営業利益が原告の休車損害になるというべきである。

(1) 一日当たりの利益額

<1> 売上高

乙五、一一によれば、中園車の本件事故前である平成四年九月から同年一一月までの三か月(稼働日数七九日間)の売上高は四一七万四五〇〇円であり、一日平均の売上高は五万二八〇〇円であると認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

<2> 経費

乙五、八ないし一〇、一二、一三によれば、中園車の本件事故前である平成四年九月から同年一一月までの三か月間(稼働日数七九日間)における、被告中園に対する給与、燃料費、修理費、タイヤ費、通行料、減価償却費及び管理費の経費合計が三四九万四二六一円(乙五記載の同年九月分の給与支給額三七万三〇五〇円は、三六万六〇五〇円の誤記と認める。)であり、被告会社は右経費の全てを前記売上高から控除すべきものであることを自認しているから、右経費の一日平均四万四二三一円を前記一日平均の売上高から控除すべきである。

(2) 代替車両を取得するために必要な期間

通常、全損となつた車両と同種・同等の代替車を取得するには、自動車販売会社に注文後、通常の装備・整備をしてから顧客に納車されるまでに必要とされる日数を要するほか、車両を注文するのに先立ち、被害車両が全損であるか否かを調査し、購入する自動車の種類・型式、新車・中古車の別等を決定すること、その購入資金を確保することなどが必要とされること、営業車の場合には、特殊な塗装・仕様などが必要とされるのが通常であり、甲六、乙二の1ないし10、乙一四の4、5、8によれば、現に被告会社の車両の導風板にSANKIと明記し、ドア部分にS、ボデイに三紀運輸と社名を記載する等し、営業用の塗装が施されていることを総合すると、被告会社が中園車の代替車を取得するための期間として、少なくとも三〇日間を要すると認めるのが相当である。

(3) そうすると、被告会社の休車損は、二五万七〇七〇円(八五六九円/日×三〇日)となる。

そうすると、被告会社の損害合計は三〇〇万二六二三円となるところ、前示のとおり、本件事故における原告の過失割合は五割であるから、五割の過失相殺を行うと、損害合計額は一五〇万一三一一円(円未満切り捨て)となる。

三  被告会社の弁護士費用 一五万円

被告会社は、弁護士である本訴被告訴訟代理人らに対し、反訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の支払いを約束したことが認められるところ(弁論の全趣旨)、本件反訴の難易度、認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある被告会社の弁護士費用相当の損害は、一五万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上によれば、原告の被告中園及び被告会社に対する本訴請求は、一七六万二九三五円及びこれに対する本件事故の日である平成四年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告会社の原告に対する反訴請求は、一六五万一三一一円及びこれに対する本件事故の日である平成四年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、原告のその余の本訴請求及び被告会社のその余の反訴請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 南敏文 大工強 湯川浩昭)

(別紙)

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